準店員

ここ2ヶ月弱で、「店員」をやってしまっている。

 

 

初めは11月末。

服屋さんで買い物をしていると、年配の方に「この服ってもう入荷しないよね?」と聞かれた。

その時の私は、その店の服を着て黒いショルダーバッグを肩にかけていた。見間違えるのも無理ないのだろう。

私店員さんじゃないんですと口に出しながら、数分前に「今ここにある分が全てです!次回入荷未定です!」と店員さんが叫んでいたことを思い出した。

 

「ここになければ、しばらくは無いですね」

と少し情けの残った100円均一店店員仕草をしてその日は店を出た。

 

 

数週間後。

「もしかして店員さんじゃないですよね?」と雑貨屋で聞かれる。声のした方に視線をやると、小さくて可愛い老婦人。唐突に話しかけられたことに驚き、挙動不審に店員さんでは無いです...と回答。

それを受けて老婦人、「ああやっぱり。」

 

ああやっぱり?

そういうパターンもあるのかと驚く。

 

話を聞いてみると、「この服の値段が分からず店員を探したが全く見つからない。正直店員では無いと思ったが、一か八かで聞いてみた」とのこと。店員ギャンブルを仕掛けていたのだ。

 

数ラリー会話を続けてしまったこともあり、老婦人をレジ横でシフトを持て余していた真の店員さんの元に送る。

なかなか良いことをしたのではないかと自分の買い物を済ませて店を出ようとすると、先ほどの店員さんと老婦人。どうやら老婦人はセット物の商品から片割れだけを買いたかったらしい。なかなか面倒な仕事を振ってしまった。まじでごめんと店員さんに目配せをしたが、彼女はトルソーを困り顔で眺めていた。

 

 

昨日。

サンリオショップに行った。

今回の目当てはファンシーショップswimmerとのコラボ商品。swimmerのキャラクターとサンリオが並んでデザインされているグッズや、スイマーの紙袋の絵柄にサンリオキャラクターが紛れ込んでいる奇跡のような代物が期間限定で販売されている。

オンラインでは早々に売り切れ再入荷を待っていたのだが、店舗に行くとわずかながら在庫があった。ほくほくしながらカゴに商品を入れていると、横にいた集団がにわかにざわつく。

 

「なんだこいつ」

「単体売ってないの?」

 

この集団は私と同年代の男性3人組。その中の1人がマイメロのぬいぐるみを探しているらしい。

 

swimmerコラボのぬいぐるみキーホルダーには、明らかに質感の違ううさぎがマイメロの横に並んでいる。

 

「こいつ何?」「マイメロの友達とか....?」

 

しばらくすれば検索するなりして正解に辿り着くだろうと思い流していたが、明らかにこちらに助けを求める視線が向けられていることが伝わってくる。それもそうだ、彼らにとって得体の知れないものを軽快に買い物カゴに入れているのだから。これを無視し続けるのも違うだろうと思い、こちらから声をかける。

 

 

「何かお探しですか?」

 

 

完全に店員の声がけ───────

 

油断した。自ら「店員」をやってしまうとは。もう乗りかかった船だと思い、接客を続行。

 

安心しきった青年たち「おれらマイメロ探してるんすけど、このうさぎなんなんですか?」

「ああ、このうさぎはswimmerっていう雑貨屋さんのうさぎです。今サンリオとコラボしてるんです」

 

なるほど〜と青年たち。「あのマイメロ単体って」

「単体だとこちらのコーナーです」歩いてキーホルダーコーナーまで案内する。

 

 

このシリーズだと先ほどのswimmerコラボのサイズと同じぐらいだと思います。と言い残しその場を去る。

あざっす!と元気に御礼の言葉をもらった。同じ客なのに。

 

冷やかしついでのノリだったらどうしようと思っていたが、青年はしっかりマイメロを買っていた。

良かったと胸を撫で下ろしたが、出過ぎた真似をしてしまったと反省した。

 

今回は棚の案内に留まったが、これがエスカレートするとレジ打ちくらいはしてしまいそうである。さながら準店員のように。